彼女に会ったのは偶然だった。だけど、世の中には必然しか無いらしく、それなら彼女と出会ったことは紛れもない必然なんだろう。
雨が降っていた。骨から冷えそうなその温度は、その時は心地よかった。何も覚えていなかったけれど、気が付いたら生への執着が消えていた。俺は確実に緩やかな死に向かっていっていたように思う。
彼女は薄汚れた裏路地に蹲っていた。夕方とは思えない空模様の中、彼女は死んだように動かなかった。しとしとと降り続いている雨が彼女の上で跳ねては沈む。その日の雨はなぜか音が無く、静かに死を誘っているみたいだった。


「あんたも、あたしを拾って、また、飽きたらすてるの?」


彼女は下を向いたまま突き刺すように言った。その声は蹲る小さいからだから発せられているとは思えないほど、冷たかった。絶対零度だ。今容赦なく体に染み込んでくる、その温度よりも。彼女の、その言葉の意味を考えればきっと何度も拾われては捨てられてきたんだろうということがうかがえる。何度も、何度も、もう死んでもいいかと思えるくらいには傷ついたんだろう。俺はぞくりとした感覚を無視するように彼女の前にしゃがみこんだ。死を予感した深い瞳はアスファルトを跳ねる雨を映したまま動かない。
「・・・・・・・・」
「・・・・・あんたも、また、私を拾うの」
色を失った唇が赤い舌を覗かせて動くと、また冷たい声が浸透した。脳髄に響く声は俺をぞくぞくとさせた。今度のそれは問いかけではなく、諦めにも似た確認のようだった。俺が彼女に触れるとようやく瞳がこちらを向いた。。鏡のように冷たく俺を映すカーマインのそれにまたぞくりとする。彼女は支配されるものじゃない。彼女は支配するものだ。違和感が確信に変わった。「なら、」と俺は口を開いた。
「君が俺を、拾ってくれる?」
次の瞬間、その瞳が大きく見開かれた。
「何、言って、」
「俺ね、さっき捨てられたの。だから君が拾って、助けてくれる?」
「助けて」。その単語を彼女の耳が捉えた瞬間瞳が大きく揺れた。「助けて・・・?あたしが・・・・?」あんたを助けるの?まるで生まれてはじめて聞いみたいに瞳はそう言っていた。その、意味がわからないみたいに。


俺は取り込むように彼女を抱き寄せた。まるで氷みたいで生きた人間の温度がしなかった。冷たい声、冷たい瞳、冷たい体温。だけど彼女の指先は縋るように俺の服をつかんだ。
「あたしが、拾うの?」
「うん、拾って」
彼女はうずめていた顔を上げると支配する者には似合わない、さっきまでの人形のような冷たさでない請うような瞳を向けた。「ダメだよ」。
「・・・何が?」
ぐっ、と彼女を抱きしめる。そんな顔をしちゃだめだよ。先ほどとは違う感覚が背に走ったのを無視して耳元で囁く。俺は俺に彼女によっての鎖をかけなければならない。傷つきすぎて壊れた綺麗な瞳の彼女をこれ以上傷つけないために自らに鎖を。


「支配して」


(そういった俺の服を、彼女はもう一度強くつかんで、)


いいわ