首元に感じる熱。
それは自分を責め立ててやむことはない。蔦のように絡まるそれが、唯一の温かさ。それでも僕は振りほどこうともがいた。
「く、るし・・・やめ・・・」
目の前の人物に訴えるも無視。むしむし。誰だろう、こいつは。真っ黒に塗りつぶされて影のようなものに温かさを感じるのは何故だろう。本気で振りほどく気が起きないのは?不確かなものに埋め尽くされて何もわかからなくなる。
いつだって現実は曖昧だ。信じられるものができただけで上出来ですねと誰かが言う。ああそうだ、一体何を信じることができるっていうんだ。かみさまはいない。他人は何も見ていない。自分が誰なのかもわからない。信じることは難しい。かたちのないものをおもい続けるのはむずかしい。ああでもこいつにころされるのならこいつにころされるという事実を信じてみようか。ねえさっき問いかけたひとへ。
力を抜いて相手の腕に触れると冷たい体温が伝わる。こいつは心もこんな温度のようにつめたいのだろうか。きっとずっと変わらない零度。うん、それなら信じられそう。結局境界線はいつだって曖昧なんだからいいじゃないか。つまりはこいつにすべてを任せるという方向で。
「っ・・・・」
拒絶か単に反応しただけか、力の強まった指先が首に食い込んで顔が歪むのがわかった。同時に相手がわらったのを感じる。こいつ、性格わるい。
もうどうでもいいからはやくころせよ。
頭が熱くてぼうっとしてくればもうこっちのもん。さあ、はやく。痛みも苦しみもすべて受け入れるから。この先何も感じないという代償の元に。はやくころして。
不意に頬をやわらかいなにかが掠めた。
霞んだ視界に焦点をがんばって合わせてみればキャメル色をした髪があたっているとわかる。
耳元でキーンと何かが鳴る。
ふわりと髪が動いて額に当たる。
同時にがくがくと首を揺さぶられる。
キーンキーンと何かが鳴る。
不自然だ。
どうして音が聞こえない?どうして顔が見えない?
あまりにも当たり前な疑問が一瞬ふっとうした頭を駆け巡って、霧散した。
ああ。
そうか。
この光景を知っている。これをしっている。こいつをしっている。僕は僕を知っている。「――!!!」
耳鳴りが消えて相手が何かを叫ぶのがわかった。
この熱をしってる。このときをしってる。蝕ばむのは現実でも繰り返すのは夢だ。いつか誰かが壊れる前に言った。
―蝕むのは現実でも、繰り返すのは夢だよ。
「―――!!!!!」
相手がもう一度何かを叫んだかと思うと同時にぐい、と顔を引き寄せられて。
唐突に言いようのない焦燥が駆け巡った。
「ちがっ・・ぼ、くは・・・ッ・・・!」
声を絞り出して出たのは否定。何が違うのかなんてわからないまま、脳は思考を真っ赤に染めてぶつんと途切れた。
あかに沈む前ひとみに残った残像は、自分とまったく同じ。
かみさま、あまりにも自然にこいつが壊れてしまったように、僕はこいつの思うようになれているのでしょうか。
ねえかみさま。